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Blog:大地X暮らし研究所

『リジェネレーター 土に恋する大地再生者たち』はじめに

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はじめに


 この本を日本の皆さんに届けられることを、とてもうれしく思います。私がニコールのことを知ったのは、2022年にナマケモノ倶楽部と共に日本で配給した映画『君の根は。大地再生にいどむ人びと(原題「To Which We Belong 」)』です。映画に登場する農家ピート・ラナンが、「彼女は助言者としてはもちろん、人柄もすばらしい」と言っているとおり、ニコールはクセの強い農家とも信頼関係を築く達人であり、彼らがよりよい農業の方法を自ら見つけ、実践する力を引き出す優れた教育者でもあります。この本では、彼女の土や作物、家畜に関する科学的知見が惜しみなく分かち合われており、彼女のコミュニケーション力、そして土へのあふれる愛に読者は心打たれることでしょう。


 私は2023年、息子の陽平と共にオーストラリアで行われたニコールのワークショップに出かけました。現地には120人を超える農家が集まっていました。驚いたことに、参加費だけでも数十万円かかるこの三日間の講座に、多くの人が学びと笑いを共有するため毎年参加しているというのです。彼らは口々に、こうして学ぶことで毎年数百万円の経費を節約できるのだから、十分その価値があるのだと話していました。


 その年の暮れ、私は、米国モンタナ州にあるニコールの同僚ミーガン・ラナンと共に、ニコールが始めたという農場を訪ね、イエローストーン川のほとりを散歩しながら彼らの情熱あふれる言葉に耳を傾けました。そこから、ニコールの著書『For the Love of Soil』を日本語で出版する相談が始まったのです。


 ここ数年、日本でもゲイブ・ブラウンやデヴィッド・モントゴメリーらの優れた著書が翻訳され、人体の健康と土の健康には、多くの共通点があることに気づく人が増えています。そのタイミングにこの本が出版されることは大変意義深いことです。これまでの優れた学者たちによる専門的な科学的基盤の上に築かれたニコールの知識と洞察は、読む者に深い理解を与えてくれます。しかも、この本が貴重なのは、具体的な実践へと進もうとする人たちに向けられて語られている点です。どうすれば土が改善するのか、貧しさから脱却できるのか、そして幸せに暮らすことができるのかと模索するすべての人によって、繰り返し読み返されている手引書なのです。土の保水力がなく日照りで作物が枯れる、雨が降るたび土が流される、病害虫が蔓延し刈り入れが少ない、家畜の病気が絶えない……。こうした困難な状況を好転させるために辿るべき過程を、この本は理解しやすく示してくれています。


 さらに、気候変動や農業資材の高騰、高齢化、過疎化、食品の栄養価の低下など、ともすれば「それが現実だ」、「どうにもできない」、などとあきらめてしまいそうな事柄に対しても、回復が可能だという希望が語られます。大気中に放出された炭素を再び土中に戻すことができ、土壌の栄養循環を回復させ、外部資材への依存を減らすことができます。その結果、農家の収益性が向上し、農村コミュニティが活性化することを、ニコールは20年以上の研究と活動を通して実証しました。何より大きな変化は、農家の顔に喜びが戻ったことでしょう。土とそこで活躍する生きものたちに倣ならって働くことで、農地が癒され、人の魂にも癒しがもたらされるのです。


 私の農場も、大リジェネラティブ地再生農業に出会う前の25年間は、化学物質を使っていなかったにもかかわらず、ミミズが棲めない農地でした。よかれと思ってやっていた農作業の多くが、実は土壌生物を殺す作業だったことに気づかなかったのです。私にとって大リジェネラティブ地再生農業は、何をすべきかだけでなく、何をしてはならないかを学ぶことでした。私の仕事は「作物を生産すること」から「土壌生物が繁栄するのを支えること」へと変わりました。これがニコールの言う「マインドセットの変化」です。大リジェネラティブ地再生農業を実践するとき、誰にもこのような腑に落ちる瞬間とも言うべき、マインドセットの転換が起こります。


 私はここ2年間、瀬尾義治さんと私の妻、荒谷明子とともに、大リジェネラティブ地再生農業の考え方と実践を多くの日本の農家や園芸家に紹介する活動をしてきました。すべては土から始まる再生の旅です。本書は旅を始めたばかりの人々にとっても、すでにその道を進んでいる人々にとっても、貴重なガイドとなるでしょう。


 ニコールの熱意あふれるメッセージを翻訳してくださった辻信一さん、どうもありがとう。また編集や校正にご協力いただいた、二葉テリーさん、二葉眞弓さん、馬場直子さん、瀬尾義治さん、そして、日本農業の希望ある未来のために、愛のこもったお仕事に励まれている多くの方々に心より感謝します。


2025年8月

レイモンド・エップ

(メノビレッジ長沼、マオイカバーシード、大地再生の旅 代表)


レイモンド・エップ(右)と荒谷明子夫妻
レイモンド・エップ(右)と荒谷明子夫妻

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